「おはよう」が返ってこない朝
「おはようございます」
僕がそう言っても、社長はパソコンの画面から目を離さない。
挨拶を返さないのが、うちの会社の「日常」だった。
最初は「社長は忙しいんだ」と自分に言い聞かせていた。
しかし、ある日気づいてしまった。
社長は、自分のお気に入りの役員には、笑顔で声をかけていることに。
「昨日の件、助かったよ」
その瞬間、胸の奥が静かに冷えた。
ああ、返さないんじゃない。“返す相手”を選んでいたんだ。
その日から、会社に行くのが少しだけ苦しくなった。
挨拶をしても、見られない。
話しかけても、目を合わせてもらえない。
僕たち平社員は、社長にとって「仲間」ではなく、ただの「動く部品」なのかもしれない。
そう思った夜、僕は初めて転職サイトを開いた。
社労士が突きつけた「真実」
ある日、顧問社労士が月次の打ち合わせで会社に来た。
会議室に入ると、社労士は資料を広げる前に、静かに口を開いた。
「社長、最近、社員の離職が続いていますね。理由、ご存じですか?」
「……景気も悪いし、若いのはすぐ辞めるんだよ」
「いいえ、違います。社員は、社長が自分を見ていないと知っているからです」
社長は顔を赤くして反論しようとしたが、社労士はさらに踏み込んだ。
「社長、部下に対して挨拶をしていますか?」
「……忙しいときもある」
「挨拶は、マナーではありません。『あなたを認識しています』という、組織の一番基本的なメッセージです。無視され続けた人は、『自分は必要とされていない』と感じます。それは、想像以上に人の心を削るんです」
会議室に、凍りつくような沈黙が流れた。社長は、何も言い返せなかった。
「挨拶ぐらい…」と流していませんか?
あなたの会社では、今日、何人が挨拶を交わしたでしょうか。
- 廊下ですれ違っても、目を合わせない。
- 「おはようございます」と言っても、返事がない。
- 上司は黙ったまま通り過ぎる。
「挨拶くらいで、騒ぐほどのことじゃない」
もしそう感じたなら、それは、見過ごされがちな最初の警告です。
挨拶がない職場で、実際に起きていること
挨拶が消えるのは、偶然ではありません。そこでは、静かな諦めが広がっています。
- 誰も雑談しなくなる
- 困っていても、「まあいいか」で終わる
- ミスを見つけても、黙って見過ごす
- そして、誰かが辞めても、職場は驚かなくなる
挨拶がない職場では、チームワークも、信頼も、すでに機能していません。
そして一番怖いのは、誰もそれを「問題」だと思わなくなることです。
「挨拶しろ」と言っても、職場は変わらない
経営者はよく言います。「社員には、ちゃんと挨拶するように言っています」と。
でも、ほとんどの会社で状況は変わりません。
上司が実際にはやっていない。
職場の不満が放置され、挨拶が個人の善意に任されているからです。
挨拶は「入口」に過ぎません。
挨拶は、ただのマナーではなく、
- 心理的安全性の入口
- 社員が「ここにいていい」と感じられるかどうかのサイン なのです。
挨拶が戻らない職場では、どんな制度を入れても、どんな研修をしても、人は定着しません。
あなたの職場は大丈夫?
- 挨拶は返るが、元気がない → 疲労や余裕のなさが溜まっています
- 挨拶を返さない人が増えている → 不満や諦めが広がり始めています
- 挨拶する人が浮いている → 「声を出すこと」がリスクになっています
- 挨拶も報連相もない → 組織不全のサインです
挨拶が戻ったとき、組織は動き始める
挨拶が交わされるようになると、
- 会話が増える
- 相談が戻る
- 空気が変わる
それは、組織が回復し始めたサインです。
「挨拶くらい」と思えるうちは、まだ間に合います。
挨拶が完全に消えた職場は、もっと深い問題を抱えています。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたらお気軽にご相談ください。





