「こんな会社、辞めてやる!」3ヶ月後に届いたもの

怒鳴って出ていった社員

「こんな会社、辞めてやる!」

社長と口論になった社員の佐藤が、そう言い放って会社を出ていきました。
それ以来、連絡もありません。

社長は、他の社員に聞きました。
「佐藤から何か連絡あった?」

「いえ、何も」

「そうか。まあ、あいつはもう来ないだろう」

社長は、佐藤が自分で辞めると言ったのだからと、
退職扱いで処理しました。

退職願はもらっていませんでしたが、
「あんな状態で退職願なんてもらえるわけがない」
と思っていました。

3ヶ月後、突然届いた内容証明

ある日、会社に一通の郵便が届きました。
差出人は、見たことのない弁護士事務所でした。

嫌な予感がしました。

封を開けると、そこにはこう書かれていました。

「解雇予告手当請求書」

佐藤氏は、貴社により不当に解雇されました。
よって、労働基準法第20条に基づき、解雇予告手当として
30日分の平均賃金を請求します

社長は、一瞬意味が分かりませんでした。

「何を言ってるんだ。あいつは自分で辞めると言って出ていったんだぞ」

でも、退職願はありません。
証拠がない……。

「退職願、もらっておけばよかった」

社長は、近くで開業している社労士に相談しました。

「退職願はもらっていますか?」

「いえ。あんな状態で出て行ったので、もらっていません」

社労士は少し困った顔をしました。
「退職願がないと、『自己都合退職』を証明するのが難しくなります」

「でも、あいつが『辞めてやる』って言って出ていったんですよ。
他の社員も見ています」

「それは重要な証拠です。他に何かありますか?」

社長は思い出しました。
「そういえば、辞めるときに少し暴れて、会社の備品を壊していったんです。
写真も撮ってあります」

「それも使えます。他の社員の証言と合わせて、弁護士に送りましょう」

その後、連絡は途絶えた

社長は、次の資料を揃えました。

  • 現場にいた社員の証言
  • 辞める際に会社の備品を壊した証拠写真
  • 退職後、他の社員を脅していたという証言

これらを相手の弁護士に送ったところ、
その後、佐藤からも弁護士からも連絡は来なくなりました。

社長は、ほっとしました。

しかし、社労士はこう言いました。
「今回はラッキーでした。
でも、退職願があれば、こんな面倒なことにはなりませんでした」

連絡が取れない社員

別の会社では、こんなこともありました。

社員の山田が、ある日から出社しなくなりました。
連絡しても、返事がありません。着信拒否です。

社長は困りました。
「これ、どうすればいいんだ? クビにしていいのか?」

社労士は答えました。

「まず、本人の意思確認が必要です。
メールやLINEで『退職の意思があるか』を確認してください。
返信があれば、それも証拠になります」

社長がメールを送ると、翌日、こんな返信が来ました。
「体調が悪くて、続けられそうにありません。退職させてください」

これで、退職の意思が文書として残りました。

「もし返信がなかったら?」

「その場合は、身元保証人に連絡します。
保証人経由で本人に伝えてもらうと、あっさり解決することもあります」

「辞めてやる」と言っただけで退職は成立する?

「辞めてやる」と言って会社を出ていった場合でも、
それだけで法律上の退職が成立するとは限りません。

感情的な発言だったのか、本当に退職の意思表示だったのかは、
後から争いになることがあります。

もし会社側が「退職した」と処理してしまうと、後から

「会社に解雇された」
「解雇予告手当を支払ってほしい」

と主張される可能性があります。

そのため、退職の意思は、
退職願やメールなど、文書として残しておくことが重要です。

退職願をもらう意義

退職願は、ただの書類ではありません。
会社を守る証拠になります。

退職願があれば、

  • 「解雇された」という言いがかりを防げる
  • 退職日を正確に記録できる(社会保険・雇用保険の手続きで重要)
  • 後から「言った・言わない」の争いを防げる

といったメリットがあります。

「悪意のある人は、一定程度いる」という前提で

「うちの社員は、そんなことしないよ」
そう思いたい気持ちはわかります。

でも、現実には、自分で辞めると言っておきながら、
「解雇された」と訴えてくる人は、一定程度います。

トラブルは起きるもの、という前提で対策を講じておく。
それが、会社を守ることにつながります。

退職願がもらえない場合の対処法

どうしても退職願がもらえない場合は、次の方法があります。

  • メールやLINE
    本人の意思が書いてあれば、メールやLINEでも証拠になります。
  • 身元保証人に連絡
    連絡が取れない場合、身元保証人に事情を説明すると、
    本人から連絡が来ることがあります。
  • 証拠を残す
    「辞めてやる」と言った場面の証言や写メなど、
    できる限り記録を残します。

まとめ

退職願は、トラブルを防ぐ最強の証拠です。

「自分で辞めると言った」だけでは、
後から「解雇された」と言われたとき、証明が難しくなることがあります。

可能な限り、退職願をもらう。それが、会社を守る第一歩です。


執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)

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