突然の「辞めたい」は限界のサイン。社員の離職を防ぐために

はじめに

「実は、お話がありまして……」

信頼していた社員からの突然の退職願。

「なぜ?」「あんなに順調だったじゃないか」
と、裏切られたような、自分を否定されたうな感覚に陥ったことはありませんか?

経営者にとって、社員の離職ほど孤独を感じる瞬間はありません。
しかし、彼らの退職の意思は、決して「突然」起きたことではないのです。

突然の退職は、積もり積もったSOS

多くの場合、退職の理由は直近のトラブルや叱責ではありません。
それはあくまで「きっかけ」に過ぎないのです。

「辞めたい」という言葉の下には、何ヶ月も前から積み重なった「孤独な責任感」や「心身の疲労」が隠れています。

特に、責任感が強く、能力の高い社員ほど、弱音を吐かずに限界まで踏ん張ります。
彼らが沈黙しているとき、心の中では「もうこれ以上、期待に応えられない」という自己否定が始まっています。

彼らが「辞めたい」と言うのは、自分を守るための最後の手段なのです。

「正論」はときに心を折る刃

社員が限界を迎えているとき、経営者がやりがちな間違いは「正論で説得しようとすること」です。

「今のプロジェクトを投げ出すのか?」
「ここで辞めたら君のキャリアに傷がつくぞ」

これらは事実かもしれませんが、今の彼らには届きません。
今、必要なのは「経営者としての正論」ではなく、「人としての寄り添い」です。

信頼をつなぎとめる3ステップ

もし、大切な社員から「辞めたい」と言われたら、まずこの順番で言葉をかけてみてください。

  1. 率直な謝罪
    「気づけなくて申し訳なかった。ここまで一人で抱え込ませてしまったのは、私の責任だ」
  2. 存在の承認
    「君がどれほど会社を支えてくれていたか、心から感謝している。君がいなくなると、私は本当に寂しい」
  3. 安心の言葉
    「まずは結論を急がなくていい。心身が回復するまで、少し休んでから一緒に考えよう」

この「一人の人間として向き合う姿勢」こそが、閉ざしかけた彼らの心を開く唯一の鍵になります。

離職を防ぐための日常的な仕組みづくり

同じことを繰り返さないためには、経営者の「意識」を「仕組み」に変える必要があります。

  1. 定期的な面談で本音を聴く
    面談を「進捗確認」の場にせず、「本音の回収」の場にします。
    「今、何が一番のストレスか?」をフラットに話せる時間を作ります。
  2. 負担の可視化
    「仕事ができる人」に業務が偏っていないか、定期的にチェックする仕組みを整えます。
  3. 「こちらから聴きにいく」姿勢へ
    「何かあれば言ってほしい」は、疲弊した社員には重荷です。
    経営者自らが「最近、無理させていないか?」と具体的に聴きに行きましょう。

経営者のための「心の健康診断」チェックリスト

あなたの会社は、社員にとって「息ができる場所」になっているでしょうか。

  • □ 「辞めたい」は愚痴ではなく限界のサインと理解しているか
  • □ 自分の非を認め、社員に「ありがとう」と「ごめん」を伝えているか
  • □ 成果だけでなく、その「プロセス」や「苦労」を見ているか
  • □ 弱音を吐いても「評価が下がらない」という安心感を与えているか

判定結果

  • チェック 0〜1個:【離職予備軍:大】
    社員は「本音を言うのは無駄」と諦めています。ある日突然、一通のメールで辞められるリスクが高い状態です。
  • チェック 2〜3個:【離職予備軍:中】
    表面上は順調ですが、社員は強いプレッシャーを感じています。大きなトラブルが起きたとき、一気に心が折れる可能性があります。
  • チェック 4個:【信頼関係:良好】
    「辞めたい」の前に「相談」が来る組織です。困難な時こそ一致団結できる、強いチームと言えます。

ワンポイントアドバイス: チェックが少なくても大丈夫です。今日から「ありがとう」と「ごめん」を増やすだけで、結果は劇的に変わります。

まとめ:離職防止の本質は「小さな対話」の積み重ね

「辞めたい」という言葉は、社員が出せる最後の手紙です。
しかし、その手紙が書かれる前にできることはたくさんあります。

結局のところ、人は「自分の存在を認められ、大切にされている」と感じる場所に留まります。

離職を防ぐ一番の特効薬は、今日、あなたが目の前の社員にかける「お疲れ様、いつも助かっているよ」という一言なのです。

今日から、社員の「心の声」に耳を傾ける一歩を踏み出してみませんか。


執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)

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