はじめに
「えっ、それ、初めて聞きました」
会議室が一瞬、静まり返りました。
取引先への対応方針が変更になっていたことを、現場リーダーが知らなかったのです。
社長は言いました。
「いや、先週の打ち合わせで伝えたはずだ」
課長も続きます。
「メールも送ったよ」
でも、そのメールは一部の正社員だけに送られていました。
パート社員には届いていなかった。
その結果、現場では旧ルールで対応し、取引先からクレームが入りました。
「どうせ私には教えてくれない」
その職場では、こんな声が静かに広がっていました。
- 大事なことは、いつも後から知る
- 決まった後に、説明だけされる
- 非正規だから、対象外だと思われている
誰も大声では不満を言いません。
ただ、少しずつ、発言が減っていきました。
提案も出なくなりました。
「どうせ決まっているんですよね」
その一言が、すべてを物語っていました。
コミュニケーションは活発だった
この会社は「仲が悪い職場」ではありませんでした。
雑談は多い。笑い声もある。飲み会もある。
社長は言います。「うちは風通しがいい」と。
でも、雑談と情報共有は別物です。
重要な業務連絡が、誰に、いつ、どう伝わったか、が確認されていなければ、
それは共有ではありません。
情報が止まると、信頼が止まる
情報が届かない職場では、次のことが起きます。
- 判断が遅れる
- ミスが増える
- 責任の所在が曖昧になる
そして、もっと深刻なのは、「自分は蚊帳の外だ」という感覚が生まれることです。
人は、排除されたと感じた瞬間から、組織への関心を失います。
仕組みがないだけだった
この会社は、悪意で情報を共有していなかったわけではありません。
仕組みがなかっただけです。
- 誰が誰に伝えるかが決まっていない
- 伝わっているか、の確認をしていない
- 情報の置き場所がバラバラ
すべて、みなさんの善意に頼っていたのです。
「伝えたつもり」が積み重なり、「聞いていない」が増えていきました。
小さな変更から始めた
会社は、次の3つだけを決めました。
- 朝礼は全員参加(正社員・非正規を問わず)
- 業務連絡は、必ず共有フォルダと掲示板に掲載
- 「誰に伝えたか」を確認するチェック欄を作る
派手な改革ではありません。
でも半年後、クレームは減り、「聞いていません」はほとんどなくなりました。
情報共有は「信頼づくり」
情報共有は、コミュニケーション能力の問題ではありません。
構造の問題です。
善意では回りません。仕組みで回します。
「うちは仲がいいから大丈夫」そう思ったときが、一番危険です。
情報が止まれば、信頼も止まる。
そして信頼が止まると、組織は静かに崩れていきます。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたら、早めにご相談ください。



