はじめに:「二重人格」に見える上司が職場にもたらすもの
上司が二重人格に見える職場では、社員は「仕事の質」ではなく「上司の機嫌」を読んで働くようになります。
ここで言う「二重人格」とは、性格の問題ではなく、立場と役割の切り替えに疲弊した結果を指しています。
社員から、こんな声を聞いたことはないでしょうか。
- 「取引先の前と社内とでは、別人みたい」
- 「言っていることと、やっていることが違う」
- 「忙しい時と暇な時で、評価基準が変わる」
社員は、上司の言動に一貫性がないと感じたとき、
- 「この人は信用できない」
- 「いつ態度が変わるかわからない」
という不安を抱きます。
そしてこの不信感は、
- 相談しない
- 本音を言わない
- 静かに距離を取る
という形で、確実に職場に広がっていきます。
社員の視点と具体的な事例
ここでは、実際に多くの職場で起きている典型的な事例をいくつかご紹介します。
【事例①】取引先と社内で態度が180度変わる上司
取引先には低姿勢でにこやか。しかし社内では、突然声を荒らげて部下を叱責する。
このギャップを見た社員は、「裏表がある」「機嫌次第で怒られる」と感じ、安心して相談できなくなります。
【事例②】朝礼では理想論、業務では真逆の行動
「社員を大切に」「助け合うチームを」と語る一方で、実際は数字だけを重視し、協力や陰での支えを評価しない。
社員は次第に、「どうせきれいごとだ」と心を閉ざしていきます。
【事例③】ルールを都合よく変える上司
ルールや方針が、相手やその日の状況で変わる。
説明もなく一方的に決まるため、不公平感が蓄積し、優秀な人ほど早く職場を去っていきます。
なぜ管理職は「二重人格」になってしまうのか
ここで重要なのは、「これはダメな上司の問題だ」で終わらせないことです。
多くの管理職は、次のような構造の中に置かれています。
- 上層部からは
「数字を出せ」「成果を上げろ」 - 現場からは
「人を大切にしてほしい」「話を聞いてほしい」
この板挟みの中で、場面ごとに求められる役割が変わり、結果として「顔を使い分ける」状態になります。
さらに、
- 判断基準が曖昧
- 相談できる相手がいない
- 感情を吐き出す場がない
こうした環境が重なると、管理職自身が疲弊し、感情のコントロールを失っていきます。
その結果が、社員から見た「二重人格」に映るのです。
個人任せにしない仕組みづくり
解決策は、管理職の性格改善ではありません。仕組みをつくることです。
仕組み① 評価基準の明文化
- 忙しい時期・通常期で「何を優先するのか」を言語化する
- 気分や状況で変わらない基準をつくる
仕組み② 管理職へのサポート体制
- 管理職を「一人で抱え込ませない」
- 上司自身が相談できる場を用意する
仕組み③ 定期的な1on1ミーティング
- 社員が「違和感」を溜め込まずに話せる時間をつくる
- 小さなズレを早期に修正できる仕組み
仕組み④「説明する」を具体化する
どこまでがOKで、どこからがNGなのかを示します。
- 悪い例:「今は忙しいから60点でいい」
→ 社員:「60点ってどこまで?」 - 良い例:「今月は納期最優先。チェックリストの①②をクリアすればOK。
③④は来月からしっかり見直します。なぜなら…」 - さらに良い例: 「今月の優先順位:1位=納期、2位=品質、3位=コスト。
何か迷ったら、この順番で判断してください」
ここまで具体的に伝えることで、社員は状況の変化を「理不尽」ではなく「納得」として受け止められます。
管理職個人が今日からできること
仕組みと並行して、個人として意識したいのは次の3点です。
- 判断に理由をつける
「今日はこういう理由で、こうします」と毎回説明する - 間違えたら認める
「先週言ったことと違ってごめん。状況が変わったから、こう変更します」 - 感情的になったら謝る
「さっきは言い方がきつかった。申し訳ない」
これだけでも、社員の受け取り方は大きく変わります。
まとめ:信頼は「性格」ではなく「仕組み」で守る
「二重人格」と思われるのは、一瞬で信頼を失うリスクがあります。
しかしその多くは、個人の資質ではなく、組織の構造が生み出している問題です。
- 個人の善意に頼らない
- 管理職個人の頑張りや感情コントロールに任せない
- 仕組みで支える
この視点を持つことで、信頼されるリーダーと、安定した組織が育っていきます。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたらお気軽にご相談ください。




