「使えないな」その一言が労働局への通報につながった

「使えないな。もういい、自分でやる」

月曜日の朝。課長の山田は、部下の佐藤を怒鳴りました。
「佐藤、この資料、何だこれ! 使えないぞ!」
「すみません、どこが……」
「どこがって、全部だよ! お前、本当に使えないやつだな。もういい、自分でやる」

佐藤は、黙って席に戻りました。


水曜日。佐藤が5分遅刻しました。

「佐藤、遅刻か。お前、やる気あるのか?」
「すみません、電車が……」
「言い訳するな! やる気がないなら辞めろ!」

山田は、他の社員の前で大声で怒鳴りました。
佐藤は、顔を真っ赤にして黙っていました。


金曜日。佐藤がミスをしました。

「佐藤! 何度言ったらわかるんだ! バカか!」
山田は、デスクを叩きました。

周囲の社員は、黙って下を向いていました。
佐藤は、震えていました。

1ヶ月後、佐藤が休職した

佐藤は、会社に診断書を郵送しました。
「適応障害。1ヶ月の休養が必要。直接的な接触は控えるように」

人事担当の鈴木が、山田に報告しました。

「課長、佐藤さん、休職です」
「え? なんで?」
「適応障害だそうです」

山田は、驚きました。
「俺、そんなに厳しくしてないぞ。最近の若い奴は、打たれ弱いな」

3ヶ月後

会社に、都道府県労働局から連絡が来ました。
「パワーハラスメントの相談がありました。事実関係の確認にご協力ください」

人事部長が、山田を呼びました。
「山田課長、佐藤さんから労働局に相談があったそうです」
「え? 俺、パワハラなんてしてないですよ」
「佐藤さんは、録音していたそうです」

山田は、青ざめました。

会社全体をヒアリング

その後、鈴木は社労士に相談しました。
社労士は、会社全体をヒアリングし、こう報告しました。

「御社は、パワハラ体質が根付いています」
「……どういうことですか?」

「上司と部下の間に、本当の意味での会話(対話)がありません。指示と叱責だけです」
「そして、上司が自分の価値観を一方的に押しつけ、感情的に怒鳴る。このような対応が当たり前になっています」

鈴木は青ざめて言います。
「たしかに、そういう文化がずっとありました。その体質や風土は、トップが長年かけて作ってきたものです」

このまま放置するとどうなるか

1. 人の定着が悪くなる

社労士は続けました。

「今、離職率はどれくらいですか?」
「……30%くらいです」
「異常に高いです。パワハラが原因で辞めている人が多いはずです」

2. 徒党を組まれて反抗・退職される

「今回、佐藤さんは一人で申告しましたが、次は複数人で訴えられる可能性があります」

3. 精神疾患を患う人が出てくる

「佐藤さんのように、適応障害やうつ病になる人が増えれば、会社の責任が問われます」

鈴木はさらに青ざめた。「……そんなことになるとは、思ってもいませんでした」

「相手は、1人の人間です」

社労士は、最後にこう言いました。

「職場では役割やスキルが異なるだけであって、1人の人間として尊重されるのは当然のことです」

「そう思えば、相手を怒鳴ったり、さげすんだり、馬鹿にすることはできないはずです」

「同じことを家族がされたら、どう感じますか?」

会社が変えたこと

それから、会社は動き始めました。

1.パワハラ研修の実施
 全管理職に、パワハラ防止研修を義務づけた

2. 相談窓口の設置
 社外の相談窓口を設置し、社員が安心して相談できる体制を整えた

3. 山田課長の異動
 管理職から外された

1年後、佐藤が復職した

「佐藤さん、大丈夫?」人事の鈴木が聞きました。
「はい。山田課長がいなくなって、安心しました」
「そうか。これからは、安心して働いてね」

佐藤は、静かにうなずきました。

まとめ:ハラスメントは組織を壊す

ハラスメントがある組織は、必ず壊れます。

  • 人が定着しない
  • 精神疾患が増える
  • 訴えられる

でも、変えることはできます

  • 感情的に怒鳴らない
  • 人格を否定しない
  • 1人の人間として尊重する

これだけで、職場は変わり始めます。


執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)

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