「うちは100点を目指す会社だ」
ある日、社長の山田は、全社員を集めて宣言しました。
「うちは、中途半端な仕事はしない。100点を目指す会社だ」
「お客様のために、最高のサービスを提供する。そのために、みんなで100点を目指そう」
社員たちは、拍手しました。
一番真面目な佐藤(32歳)は、心の中で誓いました。
(私が、100点を取らなきゃ)
佐藤は、毎日夜10時まで働くようになりました。
「佐藤さん、また遅いね」
「はい……100点目指してるので」
「無理しないでね」
「大丈夫です」
でも、大丈夫ではありませんでした。
半年後のある日、佐藤は会社に来なくなりました。
診断書には「2ヶ月の休養が必要」と書かれていました。
社労士からの指摘
社長の山田は、社労士に相談しました。
「佐藤が壊れてしまったんです。なんでですかね」
社労士は、静かに聞きました。
「社長、佐藤さんに何を求めていましたか?」
「100点です。うちは100点を目指す会社なので」
社労士は、はっきり言いました。「それが、佐藤さんを壊したんです」
「雇用」と「教育」は、まったく別物
「社長、「雇用」と「教育」は、まったく別物です」
「どういうことですか?」
「多くの経営者が、無意識にこの二つを混同しています」
【雇用とは】
- 生活のために働くこと
- 時間と労働の対価
- 価値観はみんなバラバラ
- 60点で回れば成立する
【教育とは】
- 学びたいという意思
- 「この人から学びたい」という信頼
- 自発性
- 100点を目指す覚悟
このように、前提条件がまったく違います。
それなのに、雇用の場で教育を行い、しかも100点を求める。
反発されるのは、ある意味当然かもしれません。
一番まじめな人が、壊れていく理由
「社長、皮肉なことに、壊れていくのは『いい人』『真面目な人』なんです」
山田は、黙って聞いていました。
「佐藤さんのように、責任感が強い、理念を理解できる、期待に応えようとする人は、
『自分が100点を取らなければ』と、誰よりも自分を追い込みます」
「そこまで背負う気のない人は、早々に離脱します」
「反発する人は、問題社員扱いされます」
「結果として残るのは、疲弊した少数者と、孤立したトップです」
山田は、心当たりがありました。
職場は「60点で回る場所」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「職場は長期戦です。価値観も能力もバラバラな環境で、入れ替わりもしょっちゅうあります。
そのような環境で100点を求めれば、必ずどこかで無理が出ます」
「だから必要なのは、60点でよしとする覚悟です」
「でも、60点って、中途半端じゃないですか?」
「残りの40点は、社員それぞれの人生の領域です」
- 家庭
- 体調
- 価値観
- 今のキャパシティ
「そこに、社長は踏み込まないことです」
山田が変えたこと
次の全体会議で、山田は宣言しました。
「みんな、今まで100点を求めてきたけど、これからは60点でいい」
社員たちは、驚いた顔をしました。
「60点とは、手を抜くことではない。60点で回る仕組みを作るということだ」
「誰か一人の100点に頼らない。不完全な人間が集まっても、回り続ける。それを目指す」
そして、山田は3つのことを変えました。
1. 属人化しない
佐藤にしかできない仕事を、他の人もできるようにマニュアル化しました。
2. 役割を分ける
一人が全部やるのではなく、役割を分けました。
3. 判断基準を共有する
「こういう時は、こう判断する」という基準を共有しました。
半年後、佐藤が復職しました。
「佐藤、大丈夫か?」
「はい。でも、もう100点は目指しません」
「それでいい。60点で回る仕組みがあるから、無理しなくていい」
佐藤は、安心した顔をしました。
まとめ:60点で回る職場こそ、長く続く
職場は、生活が交差する場所です。
- 一致団結しなくてもいい
- 全員が同じ方向を向かなくてもいい
- 60点で回ればいい
その方が、長く続きます。
100点への執着を手放したとき、不思議と組織はうまく回り始めます。
完璧ではない人間同士が、ほどよい距離感で、「60点で回る職場」を目指す方が、実は、あなた自身も、部下も、楽になるかもしれません。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
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