100点を求める職場は、なぜ壊れるのか -雇用と教育を混同した先にあるもの-

はじめに:ある社労士事務所で起きたこと

先日、ある社労士の方から、
こんな相談を受けました(※ご本人の許可を得ています)。

「竹内さん、実はうちで、一番まじめな社員が辞めてしまったんです」

その事務所は、顧問先に「人を大切にする労務管理」を伝えている、模範的な事務所でした。

  • 所長は理念を大切にし、
  • 社員教育にも力を入れ、
  • 全員で同じ方向を向く組織を目指していました。

でも、その「100点を目指す熱量」が、一番まじめな社員を追い込んでいたのです。

話を聞きながら、正直こう思いました。
「私も、同じことをしていたかもしれない」

長年、職場の人間関係や労務トラブルを見てきて、ようやく腑に落ちたことがあります。

それは、

  • 職場は、そんなに一致団結しない
  • そして、それでいい

という現実です。

雇用と教育は、まったく別物

多くの経営者が、無意識にこの二つを混同しています。

雇用とは

  • 生活のために働くこと
  • 時間と労務の対価
  • 価値観はバラバラ
  • 60点で回れば成立する

【教育とは】

  • 学びたいという意思
  • 「この人から学びたい」という信頼
  • 自発性
  • 100点を目指す覚悟

このように、前提条件がまったく違います。

それなのに、雇用の場で教育を行い、しかも100点を求める。
反発されるのは、ある意味当然かもしれません。

一番まじめな人が、壊れていく理由

皮肉なことに、壊れていくのは「いい人」「まじめな人」です。

  • 責任感が強い
  • 理念を理解できる
  • 期待に応えようとする

だからこそ、「自分が100点を取らなければ」と、誰よりも自分を追い込みます。

一方で、

  • そこまで背負う気のない人は離脱する
  • 反発する人は「問題がある人」と見なされる

結果として残るのは、疲弊した少数者と、孤立したトップ。

これは、業界を問わず、何度も見てきた構造です。

100点を求めていい場面も、確かにある

誤解しないでほしいのですが、100点を求めてはいけない、という話ではありません。

たとえば、

  • スポーツのような短期決戦
  • 期限付きのプロジェクト
  • 明確なゴールがある場面

こうした状況では、100点を求めても成立します。

  • 目的が同じ
  • メンバーも選べる
  • 終わりがある

しかし、職場は違います。

職場は「60点で回る場所」

職場は、

  • 長期戦
  • 価値観も能力も違う人の集合体
  • 入れ替わりもある

そんな場所です。

そこで100点を求めれば、必ずどこかで無理が出ます。
だから必要なのは、60点でよしとする覚悟です。

「40点の余白」が育むもの

60点でよしとする、というのは手を抜くことではありません。

残りの40点は、社員それぞれの人生の領域です。

  • 家庭
  • 体調
  • 価値観
  • 今のキャパシティ

そこを社長が埋めようとはしない。
その余白があるからこそ、社員の中に「自分で考えていいんだ」という余地が生まれます。

100点を求められ続ける職場では、人は考えなくなります。
ただ、疲れていくだけです。

「仕組み」として回す

60点で回るということは、誰か一人の100点に頼らないということでもあります。

完璧な人がいなくても、仕事が止まらない。
不完全な人間が集まっても、回り続ける。

それを支えるのが、仕組みです。

  • 属人化しない
  • 役割を分ける
  • 判断基準を共有する

これが、100点を求めない経営の具体的な形です。

皮肉な現実

多くの労使トラブルを見てきて、一つ気づいたことがあります。

100点を求める社長ほど、自分自身には甘く、他人には厳しい傾向がある、ということです。
「自分はまだ成長途中」と言いながら、 部下には「完璧であれ」と求めてしまう。

そのズレが、摩擦を生み、
「理解が足りない」「倫理観がない」という言葉で人を追い詰めていきます。

ただ、これは悪意ではありません。
「良い組織を作りたい」という思いが、 いつの間にか、100点への執着に変わってしまっただけです。

それだけ、ピュアな人なのかもしれません。

おわりに:60点で回る職場こそ、長く続く

職場は、理想を実現する場所ではありません。
生活が交差する場所です。

  • 一致団結しなくてもいい
  • 全員が同じ方向を向かなくてもいい
  • 60点で回ればいい

その方が、長く続きます。

100点への執着を手放したとき、不思議と組織はうまく回り始めます。

完璧ではない人間同士が、ほどよい距離感で、「60点で回る職場」を目指す方が、
実は、あなた自身も、部下も、楽になるかもしれません。


執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)

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