「これ、パワハラですよね?」
ある日、社長の山田は、部下の佐藤を注意しました。
「佐藤、遅刻が多いぞ。今月、もう3回目だ」
佐藤は、すぐに反論しました。「これ、パワハラですよね?」
「え?」
「遅刻の理由も聞かずに、一方的に責めるのって、パワハラじゃないですか?」
山田は、言葉を失いました。
誰も注意しなくなった
その日から、山田は誰も注意できなくなりました。
- 明らかにルール違反の社員がいても、黙って見過ごした
- 仕事の質が落ちている社員がいても、何も言わなかった
- 周囲が困っていても、放置した
真面目な社員が辞めた
3ヶ月後。真面目に働いていた田中が、退職届を出しました。
「田中、なんで辞めるんだ?」
「社長、もう限界です」
「何が?」
「あの人たち、遅刻しても、仕事しなくても、何も言われないじゃないですか」
「それは……」
「私、真面目にやってるのがバカらしくなりました」
田中は、そのまま会社を去りました。
社労士に相談した
山田は、社労士に相談しました。
「注意したら、パワハラって言われて。それから、誰も注意できなくなったんです」
社労士は、静かに聞きました。
「社長、それは『感情で怒ること』ですか? それとも『仕事として必要な指導』ですか?」
「……仕事として必要な指導です」
「でしたら、それはパワハラではありません」
叱れない本当の理由
社労士は続けました。
「社長、パワハラへの不安、それも理由の一つです。でも、もう一つ大きな原因があります」
「何ですか?」
「ふだんの人間関係づくりが、十分でないことです」
山田は、ドキッとしました。
「普段はほとんど声をかけない、評価も伝えていない、雑談もない。
そのような状態で、急に注意だけすると、
- 「なんで自分だけ言われるのか?」
- 「急に厳しくないか?」
と、本人は感じます」
「逆に、日頃から対話がある職場では、同じ注意をしても、
『自分のためを思って言ってくれている』『直さなきゃ』と受け取られます」
「同じ言葉でも、人間関係の土台だけで、結果が変わります」
叱らない職場で起きること
社労士は、叱らない職場で起きることを説明しました。
- 問題行動がそのまま放置される
- 周りの負担が増える
- 真面目な人ほど不公平感を持つ
- できる人から辞めていく
「これは「人」の問題ではなく、『放置』という運用の問題です」
山田は、納得しました。
「覚悟」とは強く怒ることではない
ここで言う覚悟は、怒鳴ることではありません。
部下と向き合い続ける姿勢です。
例えば、こんな行動です。
- 問題を先送りしない
- 事実ベースで伝える
- 人格ではなく、行動を指摘する
- 注意したあと必ずフォローする
- 自分もルールを守る
「特別なことではありません。でも、やり続ける人は多くありません。
続けた会社だけが、確実に変わっていきます」
山田が変えたこと
それから、山田は変わりました。
まずは、普段から声をかけるようになりました。
「佐藤、最近どう?」
「え? 何がですか?」
「いや、仕事で困ってることないかなって」
佐藤は、少し驚いた顔をしました。
問題が起きたら、その日のうちに事実だけ伝えるようにした
ある日、佐藤が遅刻しました。
山田は、少し間を置き、落ち着いてから、こう伝えました。
「佐藤、今月、遅刻が3回になってる。何か理由があるのか?」
「……電車が遅れて」
「そうか。でも、3回は多い。次からは、遅れそうなら事前に連絡してくれ。
それと、遅れないように少し早めに出るようにしてくれるか?」
「……はい」佐藤は、素直に受け入れました。
3ヶ月後
佐藤は、遅刻がなくなりました。
他の社員も、ルールを守るようになりました。
山田は、嬉しくなりました。(やっと、職場がまとまってきた)
まとめ:小さく向き合い続ける
覚悟とは、大きな決断ではありません。
- 小さな対話を避けないこと
- 見て見ぬふりをしないこと
それを積み重ねた職場だけが、安心して働ける場所になります。
叱るとは、関係を壊すことではなく、関係を守るための行動です。
問題が起きたら、少し間を置いて落ち着いてから、でもその日のうちに事実だけ伝える。
それだけで、「見ている」「放置しない」というメッセージが伝わります。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
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