はじめに:なぜすぐに辞めてしまうのか
「せっかく採用したのに、数日で来なくなった」
「退職届も出さず、連絡が取れない」
人事担当者や経営者から、こうした相談を受けることは少なくありません。
この記事では、入社直後の離職の背景にある「リアリティショック」について、現場の視点から整理します。
無断欠勤・音信不通の背景にある「心理的離脱」
会社にとって最も困るのは、連絡が取れないことですが、それは突然起きた出来事ではなく、その前に次のような心理的な流れが起きていることがほとんどです。
- 思っていた仕事や職場の雰囲気と違う
- 相談できる相手がいない
- 注意や指摘を受けて「自分は向いていない」と感じる
- 翌朝、出勤する気力が湧かなくなる
つまり、「つながりが切れている」状態です。
これがリアリティショックの正体です。理想と現実の落差が大きく、しかもその落差を受け止めてくれる人がいないとき、人は逃げることで自分を守ろうとします。
現場で実際にあったケース
ある建設会社では、新人スタッフが入社3日目で出勤してこなくなりました。
上司が電話しても出ず、LINEも既読になりません。
数日後、本人から届いたメッセージはこうでした。
「思っていた仕事と違っていました。もう行きません」
実はこの職場では、初日にきちんとしたオリエンテーションが行われていませんでした。
新人は「何をすればいいのかわからない」まま現場に出され、周囲も忙しくて構ってあげられない状態が続いていたのです。
本人は「期待に応えられない」と自信を失い、会社は「やる気がない」と受け取る。
このすれ違いが、リアリティショックをさらに深めていました。
入社してすぐ辞める主な理由
現場で多く見られる理由は、主に次の3つです。
1. 労働条件が入社前の説明と違った
求人票や面接での説明と実際の勤務条件が異なると、「騙された」と不信感を持たれます。
信頼が崩れると、離職までのスピードは一気に早まります。
2. 人間関係や指導の受け止め方
上司との相性やちょっとした注意が「きつい」「パワハラでは?」と受け止られることがあります。
実際には悪意のない指導でも、コミュニケーション不足が重なると、相手は孤立感を強めます。
3. リアリティショック(理想と現実の落差)
「思っていた仕事と違った」「自分の居場所がない」と感じた瞬間、人は心を守る選択をします。
特に入社直後は、この落差の影響を受けやすい時期です。
会社ができる対策は?
リアリティショックを完全にゼロにすることは難しいですが、軽減することは十分可能です。
1. 採用時に、良い面だけでなく現実も伝える
「うちは忙しい時期は残業もあります」「接客は感情労働です」など、現実も正直に伝えます。
入社後のギャップを小さくすることが、信頼関係の第一歩になります。
2. 初日フォローを「たまたま」ではなく「仕組み」にする
たとえば、
- 上司や先輩が「あなたを歓迎しています」と明確に伝える
- 昼休憩を一緒にとる
- 一日の終わりに「今日はどうだった?」と声をかける
入社初日は、不安と緊張がピークです。
最初の数時間で持たれた印象が、その後の定着率を大きく左右します。
3. 相談できる窓口を最初から明示する
たとえば、
- フォロー担当者を決めておく
- 「困ったことがあれば、まず○○さんへ」と伝える
- 月1回のフォロー面談をルール化する
新人が悩みを抱えても「誰に話せばいいかわからない」環境では、離職まで一直線です。
孤立させない仕組みが、会社を守ります。
社労士の現場から見える「本当の離職防止策」
離職を減らす秘訣は、「辞めないように縛ること」ではありません。
「つながりを切らせないこと」です。
定着率が高い職場ほど、次の共通点があります。
- 初日の印象が良い
- 上司が「人として」話しかける
- ミスをしたときのフォローが早い
制度やルールも重要ですが、それ以上に「この会社に自分の居場所がある」と感じられる関わりが、早期離職を防ぎます。
まとめ:リアリティショックを防ぐのは「人間関係」
「入社してすぐ辞める人」を完全にゼロにすることはできません。
しかし、辞めたくならない職場にすることはできます。
採用時のリアルな情報提供、初日の丁寧なフォロー、孤立させない仕組み。
これらを整えることで、人は会社に「居場所がある」と感じるようになります。
人材確保の難しい今だからこそ、採用後の定着支援が、会社の未来を守る鍵になります。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたら、早めにご相談ください。
状況を整理し、必要に応じて改善策や対応方法をご提案いたします。






