はじめに:「また辞めた」の本当の理由
「また社員が辞めてしまった…」
「求人を出しても誰も来ない…」
社労士として様々な労使トラブルに向き合ってきましたが、
退職理由の多くは「給与」でも「残業」でもありません。
本音を聞くと、こう言うのです。
「社長が約束を守らない」
「自分には甘いのに、私たちには厳しい」
「怒鳴られるのが怖くて、もう無理」
つまり、社長の日常的な行動パターンが、じわじわと信頼を削っているのです。
今回は、実務で繰り返し見てきた「社員が辞める社長の特徴」を3つの軸で整理します。
社員が辞める社長の3つの欠如
トラブルを招く社長には、共通して3つの「欠如」があります。
【欠如1】一貫性の欠如・言行不一致
典型的な行動:
- 「明日までにやる」と言って守らない
- 自分は遅刻しても平気だが、社員の遅刻には厳しい
- 社員のミスは叱るが、自分のミスは笑って済ます
なぜ危険なのか?
人は言動が一致しない人を信頼できません。特に組織のトップが一貫性を欠くと、「ルールは社長の気分次第」という空気が蔓延します。
社員の本音:「社長の言うことは信じられない。どうせまた変わる」
今のリスク:採用面接で評判を調べられ、辞退される
【欠如2】感情制御の欠如
典型的な行動:
- 些細なことでカッと怒鳴る
- 長時間の説教(30分以上)が日常化
- 重要な決断を先送りし続ける
なぜ危険なのか?
神経科学の研究(Arnsten, 2009)によれば、強いストレス下では前頭前野の機能が低下し、感情的な反応が優位になります。怒鳴る社長も、決断を避ける社長も、実は感情制御の欠如という同じ根を持つのです。
その結果、
- 攻撃反応 → 怒鳴る
- 逃避反応 → 決断を避ける
どちらも「失敗への恐怖」という感情に理性が負けた状態なのです。
社員の本音:
「何かあると怒鳴られるから、報告したくない」
「社長が決めないから、プロジェクトが進まない」
今のリスク:
- パワハラ防止法違反(2022年中小企業も義務化)
- 優秀な社員ほど早く見切りをつける
【欠如3】対話設計の欠如
典型的な行動:
- 朝礼や会議が1時間以上の独演会
- 社員の話を途中で遮る、否定から入る
- 「困っています」のサインに気づかない
なぜ危険なのか?
ある企業で社員アンケートを取ったところ、「社長の朝礼」が「最大のストレス源」第1位でした。内容が悪いのではなく、長すぎて伝わらないのです。
社員の本音:
「また始まった…今日は1時間コースかな」
「何を言っても無駄。どうせ聞いてくれない」
今のリスク:
- 重要な問題が社長に届かず、手遅れになる
- 「風通しの悪い会社」として低評価
- 意見を言える会社に転職される
信頼を取り戻す最初の一歩(今から)
1.一貫性を取り戻す:約束リスト
- 手帳に「社員との約束」を記録する
- 守れなかったら、先に謝る
2.感情を落ち着ける:3秒ルール
- イラッとしたら「1、2、3」と心で数える
- その間に「これは怒鳴るべきことか?」と自問
できれば:信頼できる幹部に「私が感情的になったら教えて」と頼む
3.対話を設計する:10分朝礼
- タイマーをセットし、朝礼を10分で終える
- 伝えたいことは3つまで
できれば:月1回、社員一人ひとりと15分話す時間をつくる
まとめ:変化は小さく始める
社員が辞める理由の大半は、社長の日常的な行動パターンにあります。
- 約束を守らない(一貫性の欠如)
- 感情的に怒鳴る/決断を避ける(感情制御の欠如)
- 一方的に話す/聴かない(対話設計の欠如)
これらは「性格の問題」ではなく、仕組みで改善できる行動です。
完璧を目指す必要はありません。
まずはひとつ、今日から始めてみてください。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたら、早めにご相談ください。状況を整理し、必要に応じて改善策や対応方法をご提案いたします。





