午前2時のメール
最初のサインは、半年前だった。
佐藤が改善提案を持ってきたとき、山田社長は資料を一瞥して言った。
「そんなの無理だよ。考えが甘い」
佐藤は黙って引き下がった。それ以降、誰も提案を持ってこなくなった。
そして半年後の深夜2時。
工事の遅れの報告を見て、山田社長は一気に頭に血が上った。そのまま、全社員宛てにメールを送った。
「何をやってるんだ。やる気があるのか。こんなことも管理できないのか」
送信ボタンを押した瞬間は、少しすっきりした。
翌朝、出社すると、事務所の空気が固まっていた。誰も目を合わせない。
その翌週、2人が退職届を出した。
怒りは、恐れしか生まない
相手に感情をそのままぶつけても、得られるのは「恐れ」だけです。
信頼は生まれません。
社員は萎縮する。意見を言わなくなる。報告が遅れる。問題が隠れる。
そして、真面目な人から静かに辞めていく。
短気な社長の根底には、多くの場合、不安があります。
「このままでいいのか」「なぜ思い通りに動かないのか」
その不安が怒りに転じて、部下にぶつかる。
本人は「指導している」つもりでも、受け取る側には理不尽な怒鳴りにしか聞こえません。
怒りを「観察」する
怒りは、消せません。でも、扱い方は変えられます。
- 6秒待つ
怒りのピークは6秒といわれています。その6秒をやり過ごすだけで、言葉は変わります。 - 自分の怒りのパターンに気づく
「納期が遅れると怒る」「報告がないと怒る」このパターンがわかれば、事前に手を打てます。
仕組みで防げることは、感情で対処しなくて済みます。 - 感情と事実を分けて伝える
「やる気があるのか」ではなく、「納期が3日遅れている。原因を教えてくれ」と伝えます。
同じ内容でも、受け取り方はまったく違います。
山田社長が変えたこと
退職届を受け取った翌週、山田社長は社労士に相談しました。
「あのメール、後悔しています。でも、あのとき本当に腹が立って」
「社長、腹が立つのは仕方ありません。問題は、その感情をどう扱うかです。
それに、半年前から社員は声を上げられなくなっていたんだと思いますよ」
山田社長は、佐藤の顔を思い浮かべた。あのとき、もう少し聞いていれば……。
それから山田社長は、次の3つを変えました。
- イライラを感じたときに、その場ですぐ動かない
一晩置いてから伝える。
深夜のメールは、絶対に送らない。 - 何かあったときは、まず「なぜそうなったのか」を聞く
原因を聞くだけで、自分の感情の温度が下がることに気づいた。 - 半年前に潰してしまった佐藤の提案を、もう一度聞く
「あのとき、ちゃんと聞けばよかった。もう一度、話してくれないか」
佐藤は少し驚いた顔をして、それからゆっくりと話し始めた。
完璧にはできなかったが、少しずつ職場の空気が変わっていき、社員がまた意見を言うようになりました。
まとめ
「短気は損気」 これは経営でもまったく同じです。
怒りをぶつけるのではなく、一度観察する。感情と事実を分けて伝える。
それだけで、社員との関係は変わります。
社員に長く活躍してほしいのであれば、まずは社長自身が変わります。
感情をうまくコントロールできれば、リーダーとしての信頼もアップし、組織も活性化します。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「感情的になってしまう」「職場の空気が悪くなっている」
そんなときは、お気軽にご相談ください。
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