社長の車が、今日も見当たらない
総務の田中は、駐車場を見ながら思いました。
「また、いないな」
社長は、週の半分は外にいます。
経営者団体の会合、ゴルフ、取引先との会食。社内にいる時間はほとんどありません。
「社長、最近どこにいるんですかね」と、営業の木村がぼそっと言う。
「さあ。でも、いないほうが楽っちゃ楽だけど」田中は苦笑いしました。
そのとき、二人はまだ気づいていませんでした。
「社長がいないほうが楽」という感覚が、すでに黄信号だということに。
少しずつ、歯車が狂い始めた
社長の不在が続く中、現場に変化が出始めました。
(1)古参社員の言動が強くなる
もともと気が強かった主任の坂本は、次第に部下への当たりが強くなっていきました。
「お前ら、もたもたするな!」
「なんでこんな簡単なこともできないんだ!」
若い社員たちは黙って耐えていました。
誰も何も言わなくなっていきました。
不満を言わなくなった時が、実は一番危険な離職のサインです。
(2)小さな不正が起きる
経理の一部で横領が起きました。金額は大きくありません。
しかし問題はそこではありません。
「どうせバレない」という空気が生まれていたことです。
誰も見ていない、誰も止めない。
その状態が続けば、職場は確実に崩れていきます。
社長が知ったのは、ずっと後だった
総務の田中が報告したのは、問題が起きてから3ヶ月後でした。
「社長、実は……若い社員が何人か辞めたいと言っていて」
「え? そうなの?」
「それと、経理で少し……」
「なんで早く言わなかった?」
田中は、心の中で思いました。
(言える雰囲気じゃなかった。それに、社長はいつもいないじゃないか)
この時点で、組織はすでに「報告が上がらない状態」に陥っています。
社長は、社労士に相談した
翌朝、社長は社労士に電話しました。
社労士は、静かに問いかけます。
「社員が何か困ったとき、誰に言えばよかったと思いますか?」
「現場の様子を、ご自身で見ていますか?」
社長は答えられませんでした。
社長、少し聞いてください
「社長がいない職場では、誰かが「空白」を埋めようとします」
それが適切な人であれば問題は起きません。しかし、そうでない場合、現場は一気に崩れます。
さらに、
- ミスを責めるだけの対応では、報告は止まる
- 報告が止まると、問題は隠れる
- 気づいたときには、状況はかなり進んでいる
これは特別なケースではなく、現場でよく起きていることです。
まとめ:まずはここから始めてください
特別な施策は必要ありません。まずは、次の3つから始めます。
- 毎日一度は現場の様子を見る
- 週に1回は社員と会話する
- 「最近どう?」と自分から声をかける
これだけでも、職場の空気は確実に変わり始めます。
組織は、気づかないうちに崩れます。
そして、立て直しには時間がかかります。
【簡単チェック】
次の項目に当てはまるものはありませんか?
- 社長が現場の状況を把握できていない
- 部下が本音を言ってこない
- ミスやトラブルの報告が遅い
- 特定の社員の影響力が強くなっている
1つでも当てはまる場合、すでに組織に歪みが出ている可能性があります。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
現場の問題は、表に出た時点でかなり進んでいることが多いです。「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたら、早めにご相談ください。
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