「俺の言う通りにやればいいんだ」
ある日の会議。
社長の山田は、部下の佐藤の提案を一蹴しました。
「佐藤、その案は現実的じゃない」
「でも社長、市場調査の結果では……」
「市場調査なんて机上の空論だ。俺は30年この業界にいる。経験が全てだ」
佐藤は、黙りました。
山田は続けました。「俺の言う通りにやればいいんだ。それが一番確実だ」
3ヶ月後、佐藤が辞めた
3ヶ月後。佐藤は、退職届を出しました。
「佐藤、なんで辞めるんだ?」
「もう、提案しても意味がないと思ったので」
「何を言ってるんだ。お前は優秀だ。これからもっと活躍できるのに」
「社長、私の提案、一度も採用したことないですよね」
山田は、言葉を失いました。
佐藤は静かに続けました。
「『俺が正しい』って、いつも言われます。私の意見は、的外れだと」
「それは……」
「社長の経験が正解だっていうのは分かります。でも、私たちの意見も聞いてほしかった」
半年後、また一人辞めた
半年後。今度は、営業部長の田中が辞めました。
「田中まで辞めるのか?」
「はい。もう限界です」
「何が限界なんだ?」
「社長、私たちの意見、一度も聞いてくれないじゃないですか」
山田は、怒りました。
「何を言ってるんだ! 俺はちゃんと聞いてるだろう!」
「聞いてるフリだけです。結局、最後は『俺が正しい』と言って、自分の意見を押し通してきました」
田中は、そのまま会社を去りました。
残ったのは、イエスマンだけ
その後も、優秀な社員は次々と辞めていき、
1年後に残ったのは、イエスマンばかりとなりました。
「社長の言う通りです」
「さすが社長、素晴らしい判断です」
(……なんか物足りない)
山田は、違和感を感じました。
社労士からの指摘
ある日、山田は社労士に相談しました。
「1年前から、優秀な社員が次々に辞めていってしまった」
社労士は、静かに聞きました。「社長、部下の意見、聞いていますか?」
「ちゃんと聞いてるよ」
「聞いた後、どうしていますか?」
「……俺の経験から、正しい方向に導いてる」
社労士は、はっきり言いました。
「それは、聞いているのではなく、否定しているのでは?」
「………」
- 「自分は間違っていない」
- 「部下の意見は的外れ」
- 「自分の経験が正解だ」
「このような思考に陥っている社長は、部下の意見を素直に受け取ることができません」
「その結果、優秀な人ほど『ここでは成長できない』と、離職しやすくなります」
「そして、イエスマンだけが残ります」
山田には、心当たりがありました。
社労士は続けます。「このままだと、会社は静かに冷えていきます」
対応策:耳の痛い意見にこそ価値がある
「じゃあ、どうすればいいんですか?」山田は、社労士に聞きました。
「まず、社長自身が立ち止まり、自らを振り返る機会を持つことです」
社労士は、3つの策を提案しました。
- 社外の専門家からフィードバックを受ける
➤コーチや顧問など、率直に意見を言ってくれる人を置きます - 毎月、部下とのミーティングで「改善のヒント」を聞く
➤『俺はどう改善すればいい?』と、あえて聞きます - 耳の痛いことを言ってくれる部下をあえてそばに置く
➤そういった声を大切にできる社長には、人がついていきます
山田が変わった
次の会議で、山田は部下の提案を最後まで聞きました。
「鈴木、お前の案を聞かせてくれ」
「はい。この新商品、こういう方向性で進めたいんですけど…………」
「うん、続けて」
鈴木は、驚いた顔をしました。
「最後まで聞いてくれるんですか?」
「ああ。俺、今まで最後まで聞いてなかったからな。反省してる」
全員が話し終わった後、
「みんな、ありがとう。いい意見が聞けた」
「で、社長はどう思います?」
「……正直、鈴木の案が一番いいと思う。俺の経験では考えつかなかった視点だ」
鈴木は、嬉しそうでした。
1年後
辞めた佐藤から、連絡がありました。
「社長、最近、会社の雰囲気が変わったって聞きました」
「ああ、少しずつだけどな」
「……もし、まだ枠があれば、戻りたいんですけど」
山田は、驚きました。「本当か?」
「はい。社長が変わったって、鈴木から聞いて」
まとめ:器の大きい社長が、人も組織も育てる
社員に「この人のために頑張ろう」と思わせる社長は、器の大きい人です。
自分の意見だけを押し通すのではなく、他人の意見に耳を傾け、自らの言動を省みる。
そんな社長のもとでは、人材も組織も自然と育っていきます。
今日からできること:
- 部下の意見を最後まで聞く
- 「自分が正しい」と思い込まない
- 耳の痛い意見にこそ、価値があると知る
これだけで、組織は変わり始めます。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
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