新入社員がすぐ辞めるシリーズ④/「待つ力」で職場が変わった

はじめに:「また求人…」のループが止まらない

「採用しても3ヶ月もたない」「もう何人辞めただろう」
そんな嘆きを、私は何度も耳にしてきました。

募集 → 教育 → 退職 → 再募集。このループに疲れていませんか?

「今の新人は我慢が足りない」と思いたくなる気持ち、よくわかります。
でも実際は、新人の根性ではなく、上司の怒り方が原因であることが少なくありません。

今回は、怒る上司が待つ力を身につけたことで職場が変わった、ある会社の実例を紹介します。

新人がすぐ辞める原因は「上司の怒り方」にある

神経科学者Arnstenらの研究によれば、人は恐怖の中では学習できないそうです。

怒られている時、脳は「学ぶ」ではなく「逃げる」モードになっています。
これが「怒られた内容を覚えていない」「同じミスを繰り返す」の正体です。

怒る上司がいる職場では、

  • 新人が質問できない
  • ミスを隠すようになる
  • 萎縮して本来の力が出せない

結果として、「この人の下では成長できない」と見切りをつけて退職します。

実例:怒る上司が変わったら新人が定着した話

ある食品卸売業(従業員5名)では、新人が三か月以内に次々と辞めるという悪循環が続いていました。

教育担当のK課長は、

  • 営業成績トップ、数字は誰よりも上げる
  • 「自分はこうやってきた」という成功体験が強い
  • 新人を自分と比較して、できないと厳しく当たる

新人たちの声(退職面談より)

  • 「K課長と比べられて辛かった」
  • 「自分には向いていないと思った」
  • 「怒られすぎて、何が正しいのか分からなくなった」

社長が気づいた「このままでは潰れる」瞬間

社長も当初は「今の新人は根性がない」と考えていました。
しかしある日、衝撃的な事実に気づきます。

  • 2年で新人6人が退職
  • 5人の会社で常に求人中
  • 現場の士気は低下、顧客対応にも支障

「このままでは、人がいなくなって会社が回らなくなる」
その危機感から、社長はK課長と本気で向き合いました。

社長:「Kさん、なぜそんなに怒ってしまうんですか?」

K課長:「怒ってるつもりはないんです。ただ、自分ならできたのにって思って…」

社長:「でも、新人はKさんじゃない。比較されて、『この仕事に向いてない』と言って辞めてますよね」

この対話が、K課長の変化のスイッチになりました。

K課長が実践した「待つ力」

翌日からK課長は、3つのルールを自分に課しました。

  1. イライラしたら6秒数える→ 感情の波が収まる時間をつくる。
  2. 爆発しそうな時は、その場を離れる→ 物理的に距離を置く。
  3. 期待値を紙に書いて貼る(「6ヶ月で一人立ち」と設定し、焦りを抑える。)

最初の1ヶ月は我慢の連続。それでも、少しずつ空気が変わり始めました。

変化の軌跡:半年後の職場に起きたこと

1ヶ月目: 新人は不安そう。K課長は毎日が我慢の連続。
2ヶ月目: ミスをしても、K課長は怒らず一緒に対応。
3ヶ月目: 新人が自分から相談に来るようになる。
半年後: 新人2名、全員定着。
1年後には、辞めた元社員から「戻りたい」との連絡まで。

K課長:「変わってよかった…」

待つ力が生んだ、心理的安全性

怒りを抑えたことで、職場には安心して話せる空気が戻りました。
部下は笑顔で報連相をし、ミスを共有できるチームへ。

Googleの研究によると、成果を上げるチームに共通するのは「心理的安全性」があること。
つまり、「待つ力がある上司」は、「部下が力を発揮できる環境」をつくれるリーダーなのです。

「待つ力」こそ、最大のマネジメント

K課長はこう語ります。

「今は待つことの大切さが分かりました。焦って叱るより、信じて任せた方が、みんなが自分から動いてくれるんです。」

教育とは、相手を自分の型にはめることではなく、その人のペースで成長を見守ること。
急がず、信じて待つ力が、部下を育て、チームを強くします。

あなたの職場は大丈夫ですか?

もし、あなたの職場で

  • 新人がすぐ辞める
  • 若手が萎縮している
  • 上司が「自分基準」で厳しく怒る

もし一つでも当てはまるなら、今日からできることがあります。

  1. イライラしたら6秒数える
  2. 爆発しそうな時は、その場を離れる
  3. 期待値を紙に書いて、見える化する

完璧を目指す必要はありません。まずは、ひとつだけ試してみてください。
チームは変わり始めます。

まとめ

怒りを我慢するのではなく、待つ力で人を育てる。
それは「優しさ」ではなく、戦略的なリーダーシップです。

人が定着する職場とは、信じて待てる上司がいる職場ではないでしょうか。


執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)

「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたら、早めにご相談ください。状況を整理し、必要に応じて改善策や対応方法をご提案いたします。

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