はじめに:ゼロからのスタート
社労士として開業した当初、もちろん仕事はゼロでした。そんな私に先輩社労士が勧めてくれたのが、「まずは年金事務所の受付アルバイトをやってみるといい」という助言でした。
今思えば、ここでの経験が、私の仕事観の原点になりました。
年金事務所での初仕事は“修行”だった
当時は「宙に浮いた年金問題」の真っ只中。
窓口は毎日のように混雑し、ときにはパトカーが来るほどの騒ぎも。
「俺は〇〇の議員だ、順番を早くしろ!」
「お前たちのせいで年金がどうなったと思ってるんだ!」
と怒鳴られることもありました。
でも、そんな中でふと冷静に思ったのです。
「この人たちは何に困っているんだろう?」
怒っているようで、本当は不安をぶつけているだけなのでは?
そう気づいてからは、恐怖よりも「伝わる説明をしよう」という気持ちに変わりました。
質問の内容より「本当に知りたいこと」を聞き取る
お客様の質問は、試験問題のように整理されていません。
質問自体があいまいだったり、少しズレていたりします。
でも、社労士という仕事は、そのズレの中から本当の質問を見抜く力が求められます。
「何を知りたいのか?」
「どこで混乱しているのか?」
この意図を読み取る力が身についたのは年金事務所での混乱の現場だったと思います。
現場が教えてくれた「伝える力」
一緒に受付を担当していた社労士仲間や職員の方々は、まるで戦友のような存在でした。誰もが不安やプレッシャーを抱えながらも、一人ひとりのお客様に丁寧に向き合う姿を見て、私は学びました。
「専門知識より、まずは人の気持ちに寄り添うこと」
この経験が、いま私の社労士業務の根幹を支えています。
まとめ:すべての経験に意味がある
年金事務所で学んだのは、制度の知識ではなく「伝える力」でした。
制度を知らない人に、わかりやすく説明する。
それは、今の社労士としての仕事でもっとも大切にしていることです。
過去の経験に無駄なことはひとつもありません。
あの混乱の中で鍛えられた現場対応力こそ、私の原点です。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)




