一番まじめな社員が、辞めてしまった
「評価制度を導入したんですが……一番まじめな社員が辞めてしまって」
社長の橋本は、社労士の前でそう切り出した。
半年前、やっと評価制度を整えた。
目標を設定して、達成度を数字で見える化した。
これで会社がよくなると思っていた。
「その社員は、目標を達成していましたか?」
「……80点くらいは取っていたと思います」
「辞める理由を、本人から聞きましたか?」
「『この仕事は自分には向いていない』と言っていました」
社労士は、少し考えてから言いました。
「評価制度の問題ではなく、運用の問題かもしれません」
100点を前提にすると、まじめな人から壊れる
「社長、目標を設定するとき、何点取れば合格、と決めていましたか?」
「……特に決めていませんでした。目標は達成するものだと思っていたので」
「それが原因だったかもしれません」
「え……?」
「100点を前提にした評価は、まじめな人ほど追い込まれます。
80点取っても、残り20点が気になる。達成できなかった部分ばかりが頭に残る…。
そういう人が最初に疲れていきます」
橋本は、黙って聞いていました。辞めた社員の顔が、頭に浮かびました。
60点で、合格にする
「人事制度がうまく回っている会社さんでは、60%達成で昇給の対象にしています」
「それで、甘くなりませんか?」
「逆です。60点を合格にすると、社員は挑戦しやすくなります。
100点を目指して縮こまるより、60点を安心して超えようとするほうが、結果的に伸びていきます」
橋本は、少し考えました。
「……確かに、うちの社員、目標を聞くと最初から低めに設定したがるんです」
「それは、失敗を恐れているサインです」
評価は、反省会ではなく作戦会議
「評価のとき、どんな話をしていましたか?」
「できなかった部分を中心に……改善点を話し合っていました」
「それが、まじめな社員を追い込んでいたのかもしれません」
社労士は続けました。
「評価は反省会ではなく、次への作戦会議です。できた部分を具体的に認めて、未達の部分は『次どうするか』に変えます」
橋本は、メモを取りながらうなずきました。
シンプルで、続く仕組みにする
「制度はシンプルイズベスト、です」と社労士。
たとえば、
- 年2回の振り返り
- A4一枚の評価シート
- 自己評価と上司評価
「それだけで十分です。完璧な制度より、続く運用のほうが価値があります」
橋本は、事務所を出るとき、こう思いました。
辞めた社員に、もっと早く気づいてあげればよかった。でも、次の社員には、同じことはしないぞ。
まとめ:評価制度は、人を育てる道具
評価制度は、人を選別する道具ではありません。人を育てる道具です。
ただし、100点を求めると壊れます。60点で回します。
その前提に立てば、評価制度は組織と人を強くしていきます。
まじめな人が安心して力を出せる職場は、だいたいこの温度で動いています。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたらお気軽にご相談ください。





