はじめに:言っていることは正しいのに、なぜか人が離れる
「うちの上司、普段は穏やかなんです。でも、忙しくなると別人みたいで…」
そんな声、あなたの職場にもありませんか?
「人を大切に」「チームで成長しよう」と理念は立派。
でも、いざ忙しくなると口調が荒くなり、約束もころころ変わる。
内容は正しくても、その話し方が信頼を遠ざけてしまう。
1. 忙しさが引き起こす「豹変」現象
多くのリーダーに共通するのが、平常時と繁忙時で“人格が変わって見える”ことです。
平常時は穏やかで理性的。理念に沿って判断し、部下の話にも耳を傾ける。
ところが繁忙時になると、イライラが増え、約束を一方的に変えたり、言葉が強くなったりする。
なぜこんなことが起こるのでしょうか?
神経科学の知見(Arnsten, 2009)によれば、
強いストレスを受けると、脳は反応優先モードに切り替わり、冷静な判断が難しくなるといいます。つまり、忙しさによって理性より感情が先に動いてしまうのです。
その結果、普段は穏やかな上司が急に怒ったり、感情的な指示を出してしまう。
そして、理念と現場の行動がズレ始めるのです。
2. 豹変タイプを知る
忙しさによる“豹変”には、いくつかのタイプがあります。
自分がどの傾向を持つかを知るだけでも、対処が変わります。
| タイプ | 特徴 | 周囲への影響 |
|---|---|---|
| 爆発型 | 感情が噴出し、声が荒くなる | 部下が萎縮し、報告が減る |
| 沈黙型 | 無言・無反応でプレッシャーを与える | 不安が広がり、空気が重くなる |
| 支配型 | すべてを自分でコントロールしようとする | 部下の自主性が失われる |
まずは「自分はどの場面で豹変しやすいか」を意識することが、最初の防波堤になります。
3. 組織として支える仕組みをつくる
「忙しい時ほど上司が孤立する」
これは多くの組織に共通する現象です。
感情の暴走を防ぐには、上司一人の努力だけでなく、チーム全体の支えが必要です。
- 週1回のショートミーティングで職場の温度を確認する。
早めの対話が、職場の温度差を防ぎます。 - 感情を指摘できる“右腕”をつくる
「ちょっと言い方きつかったですよ」と言ってくれる人がいるだけで、暴走は減る。 - 忙しい時期の優先ルールを決めておく
「今週は対応より安全を優先」「報告は簡潔でOK」などを事前に共有し、混乱を防ぐ。
4.信頼回復への4つのステップ
一度崩れた信頼も、日常の小さな一貫性で回復できます。
- 怒りのパターンを知る
どんな場面で感情的になりやすいか記録しておきます。 - 遅れる時は“先に伝える”
「今少し立て込んでる。遅れるけど、必ず対応する」
この一言で、部下の受け止め方は大きく変わります。 - 約束を“少なく・確実に”守る
誠実さは、スピードではなく一貫性で伝わります。 - 失敗したら、率直に認める
「この前はきつい言い方をしてしまった。ごめん。」
その一言が、信頼を取り戻す最短ルートです。
まとめ:忙しさは悪ではない
本当に強いリーダーは、「忙しさの中でも人を大切にできる人」です。
理念を語るだけでなく、感情が揺れた時こそ、その理念を行動で示す。
その一貫した姿勢こそが、人が離れない職場をつくるリーダーの力です。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたら、早めにご相談ください。
状況を整理し、必要に応じて改善策や対応方法をご提案いたします。





