はじめに:「社長を応援したい」という意外な言葉
ある会社で、社員ヒアリングを行ったときのことです。
正直に言えば、多少の不満は出るだろうと思っていました。
ところが、返ってきたのは、こんな言葉でした。
- 「社長が一番、無理してる気がして…ちょっと心配です」
- 「忙しいのに、ちゃんと話を聞いてくれるんですよね」
- 「あの人が本気でやってるから、自分も手を抜けない」
そして、誰かがぽつりと言いました。
「この社長を応援したいと思ってます」
この言葉は、簡単には出てきません。
命令しても、評価制度を整えても、生まれない感情です。
では、なぜこの社長は応援される存在になったのでしょうか。
なぜこの社長は応援されるのか
ヒアリングを重ねて見えてきたのは、意外な事実でした。
この社長は、
- 特別に優しいわけでも
- カリスマ性があるわけでも
- 話が上手なわけでもありません。
違ったのはただ一つ。信頼が「仕組み」で積み上がっていたことです。
社員の言葉を整理すると、理由は次の3つに集約されました。
理由①「言ったことが、実際に変わる」
「社長が『やる』と言ったことは、ちゃんと動くんです」
「だから、次も信じてみようって思える」
理由②「話を聞くだけで終わらない」
「意見を言うと、その場で止まらない」
「ダメなときも、理由をちゃんと説明してくれる」
理由③「判断の背景が見える」
「急な方針変更でも、理由が分かる」
「納得できるから、腹落ちする」
社員は、完璧な社長ではなく、一貫性のある社長を求めています。
応援される人は、仕組みでつくられる
「応援される社長」になるために、特別なスキルや才能は必要ありません。
必要なのは、信頼が自然に積み上がる仕組みを淡々と回すことです。
社員の気持ちが動く5つの仕組み
仕組み① 約束を管理する
社長の「やるよ」は、社員にとっては希望でもあり、疑念でもあります。
そこでこの社長は、約束を曖昧にしませんでした。
- 社員との約束をすべてリスト化
- 「いつまでに・誰が・何を」を明記
- 月1回、進捗を全員に共有
できなかったことも、隠さず伝えます。
「今回は無理だった。理由はこれ。次はここまでやる」
この積み重ねが、期待しても裏切られないという安心感を生みました。
仕組み②「忙しいから聞けない」をなくす
「話しかけづらい社長」は、それだけで距離を生みます。
この社長は、聞く時間を仕組みとして確保しました。
- 月1回、全社員と1on1
- 15〜30分でも必ず実施
- 業務の話だけでなく、不満や違和感も聞く
重要なのは、聞いたあとに、必ず何かが動くこと。
次の面談で「この前の話、ここまで進んだよ」、そう言われた社員は、次も口を開きます。
仕組み③「言っても無駄」を消す見える化
社員が一番冷める瞬間は、何も変わらないことです。
しかし、この社長は、改善を言いっぱなしにしませんでした。
(一例)進んでいないものもそのまま公開、できない理由も正直に説明します。
| 課題 | 状況 | 期限 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 評価基準が不明 | 完了 | 2月 | 人事 |
| シフトが組みにくい | 対応中 | 3月 | 店長 |
社員は完璧を求めていません。誠実な途中経過を見ています。
仕組み④ 判断は「結論+理由」で伝える
決定だけを投げると、社員は振り回された感覚になります。
しかし、この社長は、必ずこう伝えていました。
「こう決めました。理由は3つあります」
理由を聞いた社員は、判断を「理不尽」ではなく「選択」として受け取ります。
納得できるかどうかで、行動の質は大きく変わります。
仕組み⑤ 社長自身が孤立しない
最後に、意外と見落とされがちな仕組みです。
この社長は、一人で抱え込まないことを決めていました。
- 他の経営者と定期的に話す
- 社労士など専門家に相談する
- 「正直、今きつい」と口に出す
その姿を見て、社員はこう感じます。
「この人、無理してるな」
「じゃあ、自分も支えよう」
応援は、弱さを見せた瞬間に生まれることもあります。
応援される社長と、孤立する社長の違い
| 項目 | 孤立する社長 | 応援される社長 |
|---|---|---|
| 約束 | 記憶頼り | リスト化して管理 |
| 話を聞く | 気分次第 | 定期的 |
| 改善 | 放置されがち | 進捗を見える化・共有 |
| 判断 | 結論のみ | 理由セット |
| 自分のケア | 一人で抱える | 支援を活用 |
違いは、性格ではありません。仕組みの有無です。
まとめ:人柄よりも、積み重ね
社員から「応援したい」と言われる社長は、特別な人ではありません。
信頼が積み上がる行動を、仕組みとして続けているだけです。
今日からできることは、ひとつで構いません。
- 約束を紙に書く
- 15分の1on1を入れる
- 理由を添えて話す
小さな仕組みが、やがて「味方が増えていく空気」をつくります。
社員は、社長を見ています。
そして、支えたいかどうかも、ちゃんと感じ取っています。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
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