はじめに:新入社員の「孤独」を理解していますか
「教えたのに、なぜ続かないんだろう」
「もう大人なんだから、放っておいても大丈夫だろう」
そう思っている間に、新入社員の心は静かに離れていきます。
辞めた理由を聞くと、「人間関係」「雰囲気」「放置」が上位に上がります。
つまり、孤独が原因なのです。
実例:放置された新人の3ヶ月
ある製造業(従業員10名)に入社したAさん(23歳)は、明るく前向きな性格でした。
初日:
社長:「よろしくね。みんなに聞きながら覚えて」
先輩:「わからなかったら聞いてね」
…それだけで、あとは放置。
1週間後:
Aさん:(誰に聞けばいいんだろう…皆忙しそうだし)
先輩:(聞いてこないってことは、大丈夫なんだろう)
1ヶ月後:
Aさん:小さなミス → 先輩に叱られる。
先輩:「なんで聞かなかったの?」
Aさん:「…すみません」
3ヶ月後: Aさん退職
退職面談では、 「誰も気にかけてくれなくて、孤独でした。 お昼もいつも一人で、居場所がなかった」
なぜフォローが必要なのか
新人は、仕事を覚える以前に、居場所を探しています。
特に転職者や第二新卒は、
- 何を聞けばいいかわからない
- 周りが忙しそうで声をかけづらい
- 自分が受け入れられているか不安
- ミスしたら怒られるのでは、と怯える
この状態で「早く慣れて」と言われても、心がついていきません。
放置された新人は、見えないところで孤立していきます。
新入社員を支えるためにできる3つのこと
(1)メンター制度の導入
直属の上司ではなく、年齢が近くて話しかけやすい先輩を「気にかけ役」にします。
業務指導ではなく、心のサポートを担います。
ポイント
- 週1回10分の雑談(業務以外の話でOK)
- 「最近どう?」「困ってない?」と聞く
- ランチに誘う
教育係とメンターを分けることで、「相談しやすい環境」が生まれます。
(2)声かけのルールを明文化する
忙しい会社ほど、ルール化が有効です。
たとえば、
- 朝:「おはよう。今日の予定は大丈夫?」
- 昼:「お昼、一緒にどう?」
- 夕方:「今日はどうだった?」
- 週1:「慣れてきた?困ってることある?」
- ミスした時:「大丈夫、最初はそんなもんだよ」
これだけで、新人は「見てもらえている」と感じます。
③ 初日・1週間後・1ヶ月後の面談を必須に
- 初日(社長または上司)
「最初は不安だよね。焦らなくていいよ」 - 1週間後(メンター)
「慣れてきた?困ってることない?」 - 1ヶ月後(社長)
「1ヶ月経ってどう?ここで頑張れそう?」
この3回の面談だけでも、早期離職は確実に減ります。
※補足:メンターをつける余裕がない会社へ
「うちは少人数だから、メンターをつける余裕なんてない」と感じる社長も多いでしょう。
でも大丈夫です。大切なのは制度ではなく、姿勢だからです。
たとえば、
- 朝一言「昨日はどうだった?」と声をかける
- 週に1回、5分でも雑談する
- 「困ったら私に直接言っていいよ」と伝える
この小さな積み重ねが、新人にとっては支えになります。
メンター制度はあくまで形。
本質は、「誰かが自分を気にかけてくれている」と感じられることです。
だれか一人の温度のある声かけだけで、新人の孤独はぐっと和らぎます。
実例:フォロー体制を整えたら定着した
先ほどの製造業では、
- メンター制度導入
- 朝の声かけ義務化
- 1ヶ月フォロー面談実施
この3つを始めた結果、6ヶ月後には次のようになりました。
- 新人2名定着
- 「この会社は温かい」と前向きな声
- 退職者ゼロ
社長はこう語りました。
「声をかけるだけで、こんなに変わるとは思わなかった」
まとめ:新人が辞めるのは「能力」ではなく「孤独」
放置すれば、
- 質問できず、ミスが増える
- 孤独を感じ、出社が辛くなる
- 居場所を失って3ヶ月で辞める
フォローすれば、
- 安心して質問できる
- チームの一員と感じられる
- 長く働いてくれる
今日からできること
- メンターを1人決める
- 朝の声かけを習慣化
- 初日・1週間後・1ヶ月後の面談を設定
完璧でなくていいのです。まず「教える」より先に、「気にかける」。
その一言が、新人を救います。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)






