はじめに
令和6年10月〜令和7年9月の1年間で、埼玉労働局管内では複数の事業所が労働基準関係法令違反で送検されています。
多くの違反は、「うちもやってしまいがち」「忙しさでつい…」という内容が多いです。
本記事では、実際に送検された事例を整理し、同じ落とし穴にハマらないためのポイントをお伝えします。
労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和7年10月31日掲載)
/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/001527991.pdf
「送検される」と会社はどうなる?
送検は“書類送検”であっても、以下のような重大な影響があります。
- 刑事罰のリスク(罰金刑、懲役刑)
- 企業名の公表(厚労省HPに掲載)
- 取引先からの信用低下・契約停止リスク
- 求人への影響(応募数減・離職増・ブラック企業というレッテル)
- 役員個人の刑事責任追及の可能性 等
つまり送検は、「法令を破った証拠を検察に渡す」という極めて重い行政対応であり、
“注意されただけ”では決して済みません。
送検事例(埼玉労働局管内)から見えた3つの傾向
1. 安全衛生管理の不備(最も多い)
一番多かったのは、労働安全衛生法まわりのミスです。どれも「ちょっとの油断」が重大事故につながる典型例でした。
- 高所作業の墜落防止措置不足
2m以上の作業床に手すり無し、安全帯無しで作業をさせたケース。
※高所作業は、手すり設置・要求性能墜落制止用器具の使用が義務。 - 機械の安全装置が未設置・故障
・ダイ鋳造機に安全装置がなかった
・コンベヤーに非常停止装置がなかった
※どれも「設備の点検を後回しにしていた」「昔からこうやってる」が背景にある典型例です。 - 用途外使用の危険な慣行
・フォークリフトを本来用途以外で使用
・ドラグ・ショベルを主用途以外で使用
※効率のためにちょっとだけ、が実は最も危険です。
2. 賃金不払い(最低賃金法違反)
例: 労働者2名に7ヶ月分・計約156万円の賃金未払い。
※賃金は労働者の生活そのものであるため、行政対応が厳しい分野です。
3. 違法な長時間労働
36協定を超える残業を黙認していたケース。
「繁忙期で仕方なく」「黙認してしまった」がそのまま送検につながります。
事業所が今すぐ見直すべきポイント(チェックリスト付き)
以下の項目をチェックして法令違反の予兆を確認しましょう。
1. 安全衛生管理
- 高所作業に手すり・安全帯を必ず使用している
- 機械の安全装置が正常作動しているか定期点検している
- フォークリフトなどの用途外使用を禁止している
- 作業手順書があり、全員が理解している
2. 賃金管理
- 賃金台帳が正確に記録されている
- 支払期日を必ず守っている
- 最低賃金の改定を毎年確認している
3. 労働時間管理
- 36協定の上限を理解している
- タイムカード等で実態を正確に把握している
- 長時間労働者への対策(業務見直し・応援体制など)がある
※1つでも該当しない項目があれば、早急な改善が必要です。
おわりに
今回の事例は、どれも特別な会社の話ではありません。
むしろ、「忙しさにまぎれて」「昔からの慣習」で気づかないうちに起きています。
労働基準法や安衛法の違反は、労働者の命・健康・生活に直結する重要事項です。
「知らなかった」「つい」が、送検の理由になります。
ぜひ今一度、自社の現場を点検してみてください。
不明点があれば、最寄りの労働基準監督署へ早めにご相談を。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「もしかしてうちの職場も当てはまるかも」と感じたら、早めにご相談ください。状況を整理し、必要に応じて改善策や対応方法をご提案いたします。




