はじめに:誰も本音を言わない
最近、こんな違和感はありませんか。
「気がついたら、社員の誰も本音を話さなくなっていた」
「会議で発言しても、誰も反応しない」
「退職の相談が、ある日突然やってくる」
怒鳴っているわけでもない。
理不尽なことをしているつもりもない。
それなのに、社員との距離だけが、静かに広がっていく。
多くの経営者は、ここでこう考えます。
- 「もっと社員に誠意を見せよう」
- 「心から謝罪しよう」
- 「自分が変わらなきゃいけない」
しかし、信頼回復に必要なのは「誠意」ではなく「仕組み」です。
信頼は、いつ・どこで失われるのか
社員が経営者を信頼しなくなる理由は、大きく3つあります。
理由1:言っていることと、やっていることが違う
朝礼:「社員を大切に」と語る
実際:数字だけを重視、協力や努力を評価しない
→ 社員:「どっちが本音なんだろう」
この小さな違和感が積み重なり、やがて「どうせきれいごと」という諦めに変わります。
理由2:判断の基準が見えないとき
・ある人には厳しく、ある人には甘い
・忙しいときと暇なときで評価基準が変わる
・「なぜその決定をしたのか」が説明されない
→ 社員:「何を基準に頑張ればいいのか分からない」
信頼されなくなるのは、判断の理由が見えないことです。
理由3:声を上げても、何も変わらないとき
・提案してもスルーされる
・指摘すると機嫌が悪くなる
・結局、何も改善されない
この瞬間、社員の中でスイッチが切れます。
「もう言うのはやめよう」
ここから、表面上は穏やかでも、組織は確実に弱っていきます。
信頼回復に必要なのは「反省」ではなく「再現性」
信頼を失ったと気づいたとき、経営者がまずやろうとするのは「自分の態度を正すこと」です。
でも、それは長くは続きません。
- 忙しくなると忘れる
- 感情の起伏で簡単に崩れてしまう
- 状況が変わると元に戻る
これらは、個人の努力に頼る方法であり、継続しません。
必要なのは、誰がやっても、調子が悪い時でも機能する「仕組み」です。
社員との関係を立て直す5つの仕組み
仕組み①:判断の「理由」を必ず説明する
決定事項だけを伝えると、社員は不安になります。
| × 悪い例 | ○ 良い例 |
| 「来月から残業を減らします」 | 「来月から残業を減らします。理由は3つあります。 (1)健康面のリスクが出ている (2)業務の無駄が見えてきた (3) 法令上のリスクを避けたい」 |
ポイント
- 判断+理由はワンセットで
- 理由は「正しさ」より「納得感」
仕組み②:情報の「ブラックボックス」をなくす
知らされない組織では、不信感が膨らみます。
やること
- 月1回の簡単な経営報告
- 数字と方針を「わかる範囲で」共有
- 質問できる時間を必ず用意
すべてを公開する必要はありません。
「隠していない」という姿勢が信頼につながります。
仕組み③:1on1を「不満回収の場」とする
雑談ではなく、目的を明確にします。
毎回聞く質問はこの3つだけ
- 最近、やりづらいことは?
- 会社に変えてほしいことは?
- 私(経営者)に言いにくいことは?
重要なのは、その場で解決しなくても、記録して次につなげることです。
仕組み④:評価を「感覚」から「言葉」に変える
評価が曖昧だと、信頼は必ず壊れます。
- 何を評価するのか
- 何ができれば評価が上がるのか
- なぜこの評価なのか
これを言葉と紙で残すだけで、「好き嫌いで決めている」という疑念は消えていきます。
仕組み⑤ 改善の進捗を見える形で残す
社員はこう見ています。「あの話、どうなったんだろう」と。
そこで、
- 「課題」「対応状況」「期限」「担当」を一覧にし、
- 「できたこと」「できていないこと」を正直に共有します。
これだけで、「言えば変わる」という信頼が戻ります。
まとめ:信頼は「人柄」ではなく「構造」で取り戻せる
信頼は、一度失うと簡単には戻りません。でも、戻せないものでもありません。
大切なのは、
- 誠意を見せ続けられる構造をつくること
- 感情に頼らず、仕組みで関係を支えること
今日からできること5つ
- 判断の理由を必ず説明する
- 月1回、経営の情報を共有する
- 定期的に1on1を行う
- 評価基準を明文化する
- 改善リストを作成し、進捗を公開する
信頼は、仕組みで守れます。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
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