社長の思い
「うちは家族みたいな会社なんだよ」
創業30年、社員15人の町工場を経営する山田社長(62歳)は、いつもそう言っていました。
- 困ったことがあれば助け合う。
- 多少の遅刻や早退は目をつぶる。
- 休日でも、社員が困っていれば相談に乗る。
「これが、うちの良さなんだ」山田はそう信じていました。
新入社員が3ヶ月で辞めた
最初の1ヶ月は順調でした。
でも2ヶ月目から、佐藤の表情が曇り始めました。
そして3ヶ月後、退職を申し出ました。
「何か不満があったのか?」
山田が聞くと、佐藤は少し迷ってから言いました。
「社長が、プライベートに踏み込みすぎるんです」
佐藤は続けました。
「休日に『ちょっと手伝ってくれないか』って呼ばれて行ったら、社長の家の荷物運びでした」
「ああ、あのときか。悪かったな」
「それと、彼女はいるのかとか、親とはどうだとか……」
山田は黙りました。
「それと……残業代が出ないのも、ちょっと」
山田は言いました。
「うちは家族みたいな会社だからな。残業代とか有休とか、そういう堅苦しいことは言わない代わりに、多少の遅刻や欠勤は大目に見てるんだ」
佐藤は困った顔をしました。
「でも、僕は遅刻も欠勤もしていません」
若手が次々と辞めていった
佐藤が辞めたあとも、若手は続けて辞めていきました。
山田は、人事担当の鈴木に愚痴をこぼしました。「最近の若い奴らは、我慢が足りない」
鈴木は、少し言いにくそうに言いました。「社長、最近の若い人たちは『家族的な会社』って聞くと、ブラック企業だと思うらしいですよ」
「何だって?」
「ネットで調べてみたんですが、『家族的=プライベートに介入される』『家族的=残業代が出ない』って認識されているみたいです」
山田は、ショックを受けました。「俺は、良かれと思ってやってきたのに……」
ある日、内容証明郵便が届いた
そんなある日、会社に一通の郵便が届きました。
差出人は、1年前に辞めた元社員の田中。弁護士名が併記されていました。
「未払い残業代請求書」山田は、目を疑いました。「うちは家族みたいな会社だから、そういう堅苦しいことは言わないって、みんな分かってたはずだろう……」
鈴木は静かに言いました。「社長、今の時代、『家族だから』は通じないんです」
会社側と従業員側の認識のズレ
山田は、社労士に相談しました。「なぜ、こんなことになったんでしょう」
社労士は、こう説明しました。「社長の世代と、今の若い世代では、『家族的な会社』の捉え方が真逆なんです」
| 会社側の認識 | 従業員側の認識 |
|---|---|
| 家族同様だから、プライベートにも気を配る(親代わり) | 頼んでもいないのに親切心を押し付けないでほしい |
| 多少の欠勤は大目に見る その代わり残業代・有休は無し | 公私混同しないでほしい 休日に呼び出されたくない |
| 困ったときは助け合う | 社長個人の買い物を頼まれるのは仕事じゃない |
社労士は続けました。
「今はスマホで、いつでもどんな情報でも調べられます。『残業代 出ない 違法』で検索すれば、すぐに答えが出ます。有料の相談サイトもあります。時代は変わったのです」
山田は、深くため息をつきました。「俺のやり方が、もう通用しないってことか」
「通用しないというより、リスクになっているんです。人も定着しません」
まとめ
「家族的な会社」という言葉は、かつては美徳でした。でも今は、若い世代にとって「敬遠される会社の代名詞」になっています。
- プライベートへの介入
- 残業代の未払い
- 休日の呼び出し
- 公私混同
こうした行為を「家族だから」という理由で正当化することは、もうできません。「良かれと思って」が、トラブルを招く時代になったのです。
執筆:埼玉県熊谷市の社会保険労務士・竹内由美子(中小企業の人と職場の課題をサポート)
「うちの会社、もしかしたら昔のやり方のままかも」「若手が定着しない理由がわからない」 そんなときは、お気軽にご相談ください。
📖 関連コンテンツ
職場の人間関係や、人が辞める理由を、
ドラマ形式で描いた連載を、noteで公開中です➡
▶︎ 上司部下シリーズ
▶︎ 辞める人たちシリーズなど




